Installation view of "Courtesy : Contemporary Art Center, Art Tower Mito".
Installation view of "Courtesy : Contemporary Art Center, Art Tower Mito".
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Installation view of "Courtesy : Contemporary Art Center, Art Tower Mito".
息づく空間
円形に設置された24本のネオン管が、柔らかで微妙な青白い光を放っている。
真空状態のガラス管内にアルゴンガスと水銀を注入する事によって生じる色は、放電現象がもたらす自然の色である。
国谷隆志は大学卒業後、ネオン管工場の現場に身を投じ、自らネオン管制作を学ぶこととなる。彼がネオン管を使って作品を制作するようになったのは1998年だが、彼をネオン管へと導く過程にはガラスとの出会いがあった。透明なガラス板になにげなく描いた絵によって、国谷は描いたガラスの反対側から見ると絵が異なったものとなる、というしごく当たり前ながら、視点の反転によって生じるズレや見えかたの違いに気づくことになる。
98年当時の作品はネオン管による文字と鏡を使っったインスタレーションであった。文字をネオン管で作る場合、鏡文字のように反転させて制作していくという特徴がある。この特徴をいかした作品が、《Iconic Image》(1998)で、「eil」と綴られたネオン管が丸い鏡に映し出されると「lie」(うそ)と読めるという暗示的な作品である。《RACOON》(1998)はネオン管の文字「evil」(邪悪)が鏡に映ると「live」(生)に変わる。鏡はレール上を往復するあらい熊の剥製に取り付けられているので、あらい熊が一定の場に来ないと、「live」の文字を鏡上に見いだすことはできない。部屋には刑務所のような鉄格子がはめ込まれ、来館者はさながら、刑務所の中から外にある作品を見るという趣向であり、観る者の立脚点と意識の転換を促す作品である。
文字という意味性の強い要素を削ぎ落とし、むしろミニマルな展示で来館者側の意識を喚起させる要素は、2001年に発表された《Complete your space》でより顕著となったといえよう。天井からつるされたネオン管の列が部屋を横切るインスタレーションによって国谷は空間の内と外を意識させ、ネオン管を取り巻く空間全体を作品とした。
今回、国谷は天井からガラス管を等間隔に円形状につるし、一部に開口部を設けて来館者が円形の内部にも入ることができる環境的な作品を新たに制作した。街にあふれる工業製品としての無機的なネオン管とは異なり、彼は自ら息を吹き込んで身体的、有機的な形のガラス管を作り上げている。青白く発光するガラス管の列はその形と色ゆえに氷柱のようにも見えるが、ガラス管内部の化学反応が生み出す自然な色合いは、暖かくも見え、透明のガラスを通して観る者の多様な反応を軽やかに引き出す。タイトルの《Spaceless Spaces》は、空間を占有していない状態や、無限に広がる空間を暗示させる。国谷の創り出す展示空間は、そこに足を踏み入れた来館者の身体的、心理的反応が作用して空間の質を変容させることを促してもいる、といえないだろうか。彼の作品は、その場に静かに存在しながらも、来館者の内面に浸透し、環境に息吹を与えているのだ。
逢坂 恵理子
水戸芸術館現代美術センター芸術監督